人間関係のトラブル①

「時間を守る人」VS「仕事を完成させる人」

Aさんは、ある職場で長年働いていました。最初の上司は、「多少締め切りが過ぎても、仕事は最後まで丁寧に仕上げることが大切だ」という考え方の人でした。Aさんもその考え方に共感し、納得しながら仕事を進めていました。時間が多少かかっても、仕事をやり遂げたときには大きな充実感を得ていました。

ところが、上司が交代します。新しい上司はまったく違う価値観の持ち主でした。「多少不十分でも、まず締め切りを守ることが最優先」という考え方だったのです。

Aさんは以前と同じように仕事を進めました。しかし、新しい上司からは「期限を守れない」「仕事の進め方が悪い」と繰り返し注意を受けるようになりました。Aさん自身は一生懸命働いているつもりなのに評価されず、次第に自信を失い、職場へ行くことが苦痛になっていきました。そして、精神的な負担が積み重なり、うつ病を発症して休職することになりました。

このような出来事は、能力や努力の問題ではなく、「価値観の違い」から生じることがあります。

異文化コミュニケーション研究者のリンゲンフェルターは、人には大きく二つの志向性があることを指摘しています。

  • タイム・オリエンテーション(Time Orientation)
    「時間・締め切り・予定」を優先する考え方
  • イベント・オリエンテーション(Event Orientation)
    「仕事や出来事を十分に完成させること」を優先する考え方

Aさんの最初の上司はイベント志向、新しい上司はタイム志向でした。どちらが正しいということではありません。単に優先順位が異なっていただけなのです。

このような違いは、国や文化の違いだけではなく、同じ日本人同士、同じ職場の中でも起こります。仕事に対する考え方や優先順位が異なるため、お互いに「なぜ分かってくれないのだろう」と感じ、人間関係のトラブルへ発展してしまうことがあります。

さらに、その状態が長く続くと、強いストレスとなり、不安や抑うつ、適応障害、うつ病などの精神的な不調につながることもあります。

しかし、多くの場合、本当の問題は「相手が悪い」「自分が悪い」ということではありません。お互いが異なる価値観や優先順位を持っていることに気づいていないことが問題なのです。

カウンセリングでは、このような価値観や考え方の違いを整理し、自分自身の特徴を理解するとともに、相手との違いをどのように受け止め、どのように対応していくかを一緒に考えていきます。違いを理解し、適切なコミュニケーションを身につけることで、人間関係のストレスは軽減できる場合が少なくありません。