ハラスメント対策

どうする?ハラスメント
どうする?ハラスメント
あなたは職場を制御できる
あなたは職場を制御できる

Tay, Chye Thiam Austin Aloysius著

今こそACTを! 
あなたは職場のいじめを制御できる

Act now: you have control over workplace bullying.
Doctoral thesis, Birkbeck, University of London. 

頑張ってもダメ
頑張ってもダメ
身を潜めてもダメ
身を潜めてもダメ
答えは6つの心理プロセス
答えは6つの心理プロセス
怖れなき職場の構築
怖れなき職場の構築

会社の上司に他の社員の前で怒鳴られることが続いたAさんは、会社に行くことが辛くなりました。

Aさんは有名大学を出て東京の大手の会社に勤めていました。業績も良く上司からも将来を嘱望されていた彼は、数年して地方支社の要職に就くことになりました。しかしそれはAさんの苦難の始まりだったのです。

原因は地元出身の支店長とうまが合わなかったことにありました。皆の前で叱責されることがよくあり、他の社員もAさんを敬遠するようになり、その年の忘年会にはAさんだけ声がかかりませんでした。

Aさんが心理相談室にやってきたとき、最近ミスが多くなり,気持も塞ぎがちで会社に行くことが怖いと訴えました。

Aさんの話をよく聞いたカウンセラーは、「これからどうしたらいいかを一緒に考えていきましょう」と励まし、とりあえず気持ちを落ち着けるスキルとして、呼吸法を教えました。

1週間後、Aさんがやってきたとき、なぜか彼の顔は明るく輝いていました。Aさんが言うには、カウンセングの次の出社日に上司のデスクの前で注意されたとき、教えてもらった呼吸法を始めたら、上司が「な、なんだ、怒っているのか?」と驚いたような不安なような顔になり、「ともかくそういうことだ」と、話を切り上げてしまったと言うのです。

その後は怒られることもなくなり、同僚たちもAさんに畏敬の態度を示すようになっていきました。

Aさんのように短期間でパワハラ対策に成功するのは稀なケースでしょう。しかしながら他人から発せられる毒のある言葉を心に刺さらないようにする方法はあるのです。もちろんハラスメント被害は労働局や法的手段に訴えるというのが定石です。しかしそれだけでは心の傷は癒えず、その後も怯え続けるということになりかねません。ですからこうした制度上の支援を受けると同時に、自分の心も忘れずにケアする必要があります。いじめが心の負担にならないようにする方法、それはACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の6つの心理プロセスを身につける方法です。Chye T. A. A. Tayの 論文 Act now: you have control over workplace bullying 『今こそACTを! あなたは職場のいじめを制御できる』をそのアブストラクト(要約)から紹介します。

この論文は職場のいじめの被害者が用いることのできる自己管理的な介入とその効果を調査したものです。いじめにあった人たちは、通常は積極的になって頑張ったり、消極的に身を潜めたりすることで対応しようとしますが、どちらも効果は一時的で、罪悪感、自責、恥、不安などマイナスの思考や感情が湧き上がってくることには全く対処できません。これらの否定的な心理的体験に浸っていると、思考が堂々巡りを繰り返し、そこから抜け出せなくなります。こういうことを自分に許していると、結局はうつやストレス状態に陥ります。これまではこうした問題に対処する自己管理的介入はありませんでしたが、この論文でACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)にその可能性を調査しました。

結果はいじめの被害にあい、うつや不安などのストレス障害に苦しむ人々には確かに効果がある、というものでした。ACTの心理療法モデルに従って6つの心理プロセスを訓練し、それが一定程度まで積み上がると心の柔軟性が増して状況に柔軟に対処できるようになります。6つの心理プロセスとは、「アクセプタンス」、「脱フュージョン」、「今この瞬間に居る」、「観察する自己」、「価値の明確化」、「コミットメント」で、これによって思考や感情、感覚や記憶などにとらわれない心の体質を養うことができます。

これら6つの心理プロセスには次のような心理的柔軟性が期待できます。

アクセプタンス:苦しい感情に支配されることが少なくなり、平常心のときの行動がしやすくなります。

脱フュージョン:自分の思考は現実そのものではないことが分かり、気持ちに余裕が出てきます。

今この瞬間に居る:過去も未来も頭の中にあるだけで現実世界には存在しないことに気づき、目の前にある本当現実に集中できるようになります。

観察する自己:「自分はこういう人間」という決めつけから自由になり、おおらかな自分を取り戻すことができます。

価値の明確化:たとえ苦しくても自分はこのために生きているのだということがはっきりするので、生きがいを感じることができるようになります。

コミットメント:いじめと戦おうとしたり、いじめから逃げようとしたりすることが無くなり、スマートな行動ができるようになります。

ハラスメント対策としてACTが実際に有効あることを知っていただくために、調査の概要を紹介します。

この論文では三段階で調査を行い、香港、シンガポール、マレーシアの被験者に協力してもらっています。調査1では、被験者にアンケートに答えてもらい、実際にいじめにあっていている人々が、心理的柔軟性の低い人々であることが判明しました。調査2では、実際にいじめにあった被験者を対象に行い、ACTのトレーニングを行ったグループと何もしなかったグループに分けて比較した結果、トレーニングを受けた人々の心理的柔軟性が向上しました。調査3では、トレーニング後に被験者の発言の分析を行ったところ考え方に変化がみられ、心理的柔軟性を得るために学んだことを応用できるようになっていました。

この研究はいじめを受けた人がいじめの結果心に染み付いた心理問題を自分で解決できるようになるための方法を探る草分け的な研究であると言えるでしょう。

※冒頭のストーリーは複数の事例を組み合わせて再構成したものであり、ケースを特定することはできません。

参考文献: Tay, Chye Thiam Austin Aloysius (2019) Act now: you have control over workplace bullying.Doctoral thesis, Birkbeck, University of London.