自由意志はやはり存在した?

2023年02月07日

日本では多くの脳科学者や識者があたかも自由意志が存在しないことは確定事項のように語っていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。この論議のきっかけになったベンジャミン・リベットの研究は、確かに自由意志の存在を否定する方に軍配が上がりかけていました。リベット自身は何とかその存在を確認しようとしましたが決定的なことは発見できずに世を去りました。けれどもその後、ドイツの研究者がある種の自由意志が存在する有力な可能性を発表したのです。

先ごろNHKの「ヒューマニエンス クエスト」という番組を見ました。その時のテーマは「"自由な意志"それは幻想なのか?」というタイトルでした。そしてこういうことを言っていました。「最新科学はそれを脳がつくりだした「幻想」という。」インターネットに上がっていたこの番組紹介にはもう少しく詳しく書いてあります。「私たちは『意志を持って自由に決断をしている』と信じて疑わない。その『自由な意志』がテーマ。最新の脳科学は、『自由な意志』は脳がつくっている錯覚、幻想かもしれないという。無数の電気信号が飛び交う脳の神経細胞の活動は、意志が関与する前に勝手に動き出し、それによって後付けのように生まれるのが「意志」だというのだ。では、いったい脳は誰のものなのか。驚きの実験で明らかになる、私という存在の根源を妄想する。」

さあ、どうでしょう。自分にはあると思っていた自由意志が、実は幻想であって、実際には存在しない。脳の物理的な法則によって、つまり原因結果の流れの中で、初めから決まっていた。(これを決定論と言います。)わたしが右か左かを選ぼうとして、迷った挙句、右を選んだとしたら、それはもう初めからそちらを選ぶように仕組まれていたのだということになります。最新の脳科学がそういうことを言っているというのです。

もしそうだとしたら、どうでしょう、人生つまらなくありませんか。「わたし」という存在が何のためにあるのか、意味がないと思いませんか。そうなれば何をやっても、遺伝子のせい、物理法則のせいということになってしまいます。実際、自由意志は幻想だという考えを持つ人はモラルが低下し、不正行為や人を見捨てる傾向が強くなるというデータがあるそうです。自由意志なんかないという“真実”(?)を知ってしまった人間は悪魔になるということでしょうか。神とか自由意志とかいうのは宗教的幻想だったのでしょうか。

しかしNHKがいつも正しいというわけではありません。実はこの話には、NHKが放映していない事実があるのです。意志が起こる前に脳は考えているという事実は覆りません。それでもなお自由意志があることを裏付ける事実が判明しました。

 そもそも人間に自由意志がないかもしれないということになったのは、1983年にベンジャミン・リベットという生理学者が行った実験によるものでした。今からちょうど40年前です。ずいぶん昔の話ですね。その実験で分かったことは、人間が行動をすると決めたときよりも前に、つまり無意識の状態の時に、具体的には0.5秒前に、脳はその行動の準備を始めているということでした。

たとえばわたしが最後に一個残ったおまんじゅうを見て、「ああ食べたいな」と思い、「よし食べよう」と決断して、手を伸ばす。ところが実際には、わたしが迷った挙句、食べようと決める前に、脳の方は食べることに決めていたということなのです。ということは、わたしがどんなに「いやしい」と思われるのは嫌だなと逡巡したとしても、それは無駄。脳は食べることに決めていたということになるわけです。脳が決めたことには逆らえないわけです。

けれどもリベットはこの結果に満足できず何とか自由意志の存在を証明できないものかと実験を重ねましたが、結局はっきりしたことは分からないまま世を去りました。

その後の2015年、ドイツのジョンデュラン・ハインズ博士が実に興味深い発見をしました。人間は行動を起こす0.2秒前なら、その行動を中断できる。これが意味しているのは、何かをしようと決めることはできない、何をするかは脳がこちらの気づく前に決めてしまっているので、自分で決めたとは言えないわけですが、自分には脳が決めたことを0.2秒前ならキャンセルできるということです。

たとえば、またお饅頭好きのわたしに登場してもらいますが、脳の指令によりおまんじゅうに手を伸ばそうとするけれども、0.2秒前なら「いや、食べない!」と拒否でいきるのです。

そこでこういう言い方がなされるようになりました。Free Will、英語で自由意志ですが、Free Willは存在しないけれども、Free Won't、自由拒否、は存在する。何かをするということは脳が決めていることなので自分の意志ではないけれども、それをしないということは自分で決められる。つまり残したい考えの方はそのままにしておき、棄てたいえの方は拒否する、そういう意味でなら自由意志はあると言えるわけです。もちろんそうなれば自由意志の定義を少し変えなければなりませんが。つまり、自由意志とは、脳が送ってきた行動への促しに「気づく」こと、そして「選ぶ」ことだということです。

そしてみなさん、これこそまさしくマインドフルネスなのです。